① 「良いものを作れば売れる」という呪縛
日本の中小企業の経営者と話すと、ほぼ必ず出てくる言葉があります。
「うちは品質には自信がある。でも、なかなか広まらないんです」
この言葉の中に、日本企業のマーケティングが機能しない本質的な理由が詰まっています。「良いものを作れば、いずれ認められる」という信念は、職人文化・ものづくり文化を持つ日本人の美徳でもあります。しかし、現代の情報過多な市場では、この考え方が足枷になっています。
欧米企業が「なぜ買うべきか」の感情設計に膨大な投資をしてきた一方、日本企業の多くは「何を作ったか」の説明に終始してきました。機能・スペック・価格。これらは「理解」を促しても、「行動」を引き起こしません。
この記事では、日本国内で生まれながらも世界水準の感情設計を実現した2本の伝説的CMを解剖することで、マーケティングに必要な「感情」「動線」「ストーリー」の3つの欠落を明らかにします。あなたのビジネスが今日から変わるヒントがここにあります。
② JR東海「クリスマスエクスプレス」CM――感情だけで人を動かした構造
1988年から1992年にかけて放映されたJR東海のクリスマスエクスプレスシリーズは、今も「日本最高のCM」と呼ばれることがあります。
内容を知らない方のために簡単に説明すると、画面に映るのは新幹線のホームで彼氏を待つ若い女性と、走ってくる男性。セリフは最小限、新幹線の速さ・快適さ・料金といった商品説明は一切ありません。BGMは山下達郎の「クリスマス・イブ」。それだけです。
では、なぜこのCMが売上に直結したのでしょうか。
構造を分解すると、3つの仕掛けが見えてきます。
1. 視聴者を「自分ごと」にさせるシナリオ設計
遠距離恋愛、会いたい人がいる、年末に帰省できるかわからない――このCMを見た多くの人が「これは自分の話だ」と感じました。特定の誰かではなく、「誰もが持つ感情の原型」に直接訴えかけた構成です。
2. 行動の動機を「論理」ではなく「感情」で設計
「新幹線を使えば3時間で着く」という情報は、行動を合理化する材料に過ぎません。このCMが与えたのは「今すぐ会いに行きたい」という衝動です。人が財布を開くのは、論理的に正しいからではなく、感情が「行けと」命じたときです。
3. 商品がゴールではなく、感情のゴールへの「手段」として描かれている
新幹線は主役ではありません。「大切な人に会える」という感情的なゴールに対し、新幹線が最短・最確実な手段として自然に位置づけられています。商品が「脇役」でいられるほど、ブランドへの信頼は深まります。
この構造が、年末のJR東海の予約数を劇的に押し上げました。人々は「クリスマスは新幹線で会いに行くもの」という行動様式を、自然に内面化したのです。
③ JR九州「全線開通CM」――コミュニティへの帰属感情が世界を動かした
2011年3月、九州新幹線が全線開通しました。しかしその直後、東日本大震災が発生しました。
JR九州が準備していた開通記念CMは、沿線の住民たちが手を振るだけの映像です。新幹線の最高時速・座席の快適さ・停車駅の案内――そういった機能説明は1秒も入っていません。ただ、九州の人々が、走ってくる新幹線に向かって、笑顔で、力いっぱい手を振り続ける映像が4分間続くだけです。
震災の空気を読んでJR九州はこのCMの放映を見送りました。ところが、YouTubeに上げた動画が口コミで広まり、最終的に1000万再生を超えました。世界中の人々が見て、涙を流したと言います。
なぜこのCMが国境を越えたのか、構造を分解します。
1. 「九州全体が喜んでいる」という集合的な感情の可視化
一人の主人公ではなく、老若男女・職業・地域を超えた九州の人々が一斉に喜んでいる映像は、「コミュニティ全体の祝福」を体感させます。見る人は「自分もこの喜びの一部だ」と感じ、九州というコミュニティへの帰属感情が呼び起こされます。
2. 震災直後の「前向きな感情の希少性」が価値を高めた
お蔵入りになったCMが流通したタイミングは、日本全体が深く傷ついていた時期でした。その中で「こんなに喜んでいる人たちがいる」という映像は、見る人に強烈な感情的コントラストを生み出しました。抑圧されていたポジティブな感情が解放される構造です。
3. SNSで「シェアしたくなる」感情設計
このCMは「良いものを見せたい」「誰かに届けたい」という感情を自然に喚起します。1000万再生の大半は広告費ゼロの自然拡散です。感情が強ければ、人は自分の意志でメッセンジャーになります。
④ 2本のCMに共通する「感情爆発の構造」
この2本のCMには、明確な共通点があります。
商品説明ゼロ・感情100%
JR東海は新幹線の速さを説明しませんでした。JR九州は新幹線の快適さを説明しませんでした。どちらも「その商品を使ったときに訪れる感情的な状態」だけを描きました。
マーケティングの世界では、これをEQ(Emotional Quotient)設計と呼ぶこともあります。人間の意思決定の大部分は感情に根ざしており、論理は事後的に「理由づけ」をするために使われることが多い。この脳科学的な事実を、この2本のCMは完璧に実装しています。
では、なぜ日本企業の多くがこの設計を実装できないのか。
理由は3つあります。
1. 「説明したい」という本能的な衝動
作り手は商品の価値を深く理解しているため、「すべてを伝えたい」という衝動に負けます。しかし受け手にとって、機能の羅列は「感情の余白」を埋め尽くすノイズにしかなりません。
2. 感情設計を「測定できない」と感じる恐怖
感情的なアプローチは、クリック率やコンバージョン率と違い、即時に数値化しにくいため、特に資本の少ない中小企業では採用しづらいと感じられます。しかし、感情が動かない広告は、計測できても効果もありません。
3. 「自分ごと化」の設計の欠如
伝説のCMは、見た人が「これは自分の話だ」と感じる構造を持っています。商品を主語にした発信は、自然と「あなたの話」ではなく「私たちの話」になります。
⑤ 感情×動線の掛け合わせが売上を生む
感情設計だけでは、売上は生まれません。
どれだけ深く感情を動かしても、その後の「行動の道筋」が整備されていなければ、人は動きようがないからです。
JR東海のCMは、感情を動かした後の導線が完璧でした。CMを見た視聴者は「会いに行きたい」という感情を持ち、新幹線の予約窓口・旅行代理店という既存の動線がすでに整備されていました。感情→行動→購入のルートに摩擦がなかったのです。
翻って、今日の中小企業のSNS運用を見ると、多くの場合こうなっています。
「良い投稿をした→いいねが増えた→でも売上は変わらない」
この症状の正体は、感情と動線の断絶です。共感を生む投稿ができていても、その次に「どこへ行けばいいか」が設計されていない。SNSのプロフィール欄にURLはあるが、リンク先のLPは商品の説明しかない。問い合わせフォームはあるが、ハードルが高く感じる文言になっている。
感情が動いた瞬間に、最も自然な形で次の行動へ誘導する設計を「動線設計」と呼びます。SNS→LP→問い合わせ(または購入)の流れが一本の線として繋がって初めて、感情投資が売上に変換されます。感情と動線を掛け合わせると、広告費をかけずに成約率が上がるという逆説的な結果が生まれます。
⑥ あなたのビジネスにも「物語」はある
ここまで読んで、こう感じた方もいるかもしれません。
「JR東海やJR九州のような大企業の話であって、うちには関係ない」
それは違います。
むしろ、地方の中小企業・職人・老舗こそが、伝説のCMと同じ「素材」を持っています。
創業の苦労と決意。地域の歴史との繋がり。職人が一つの仕事に込める誇りと愛着。後継者がいない中で守り続けてきたもの。地元の人々が当たり前のように利用し続けてきた風景の一部であること。
これらはすべて、感情を動かす「物語の素材」です。
そして今は、スマホ1台で短尺動画を撮影・編集・発信できる時代です。Instagramリール・TikTok・YouTube Shortsは、かつてのテレビCM枠に代わる「感情設計の舞台」として機能しています。製作費は限りなくゼロに近づいており、届けられる範囲は地元を超えて日本全国・世界にまで広がっています。
JR九州のCMが教えてくれた最大の教訓はここにあります。お金をかけずに感情を動かした映像が、1000万人に届いた。その時代に私たちは生きています。
あなたのビジネスの「物語」は、すでにそこにあります。あとは、それを正しく設計して届けるだけです。
⑦ あなたの物語を、一緒に設計しませんか
今回の記事を読んで「自分のビジネスにも感情設計を取り入れてみたい」と感じていただけたなら、それがスタートラインです。
Uniaxia は、地方の中小企業・個人事業主が「感情×動線×ストーリー」の3つを正しく組み合わせ、SNSを通じて確実に成果を出せるよう支援しています。売り込みではなく、まずはフラットに状況を聞かせてください。
あなたのビジネスの物語を、一緒に設計しましょう。
Uniaxia 公式サイト:https://uniaxia.com
Uniaxia 代表
大手企業でデジタルマーケティングに従事。地方の「商い」をデジタルの力で再加速させることをミッションに活動中。
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